(平成23年04月08日)
目標 の 喪失

 わが国における空白の20年間を思うと、それは、どこへ向かって進んでいるのかが不明なまま、いわゆる国家目標を喪失した状態で、なおかつ老朽化した羅針盤も機能しないまま、波の漂うままに漂流し続けている難破船のようなものだと思う。

 1960~70年代の日本は、「欧米に追いつけ追い越せ」を目標に、欧米が休息を十分に取って楽しんでいるときでも、休むことなく日の丸の鉢巻をしっかりと頭に巻きつけ、汗水たらしガムシャラに働いてきた。 その結果、世界中からエコノミックアニマルと罵られ、恐れられながらも「ジャパン アズ ナンバーワン」と言われるまでに上り詰めてきた。

しかしながら、20年前は最強だった日本の産業も、今では韓国や中国そしてドイツ等に押されぎみで、かつての「ジャパン アズ ナンバーワン」の姿は見る影もない。

 なぜそんなに衰退してしまったのか。
それは、「欧米を追い越す」といった国家目標を20年前に達成してしまったためである。そして、目標を達成した後に、どう生きるべきかといった次なる目標や戦略が定まらず、目標亡き漂流を続けていることがその理由である。

国の進むべき道を国民にまったく示さず、政治、経済界のリーダーたちも思考停止状態のまま固まってしまった。 それは、ぬるま湯の中で気持ちよく入浴しているうちに、ゆでガエルになってしまったのと同じようなものである。

 このことは、国家だけではなく、国民も同様である。
欧米の豊かな暮らしを夢見て、家族も、地域社会も犠牲にして仕事一筋に打ち込んできた。 その結果、物質的豊かさにおいては世界のトップクラスの仲間入りを果たした。
しかし問題なのは、いくらモノやお金が充足しても、心の底から豊かになったという喜び溢れる実感が得られないということであり、それは今日まで続いている。

ものや金がある程度充足したら、次なる目標が必要になるはずなのに、相変わらず他者との比較といった古いモノサシしか持たず、本当の心が何を望んでいるのかといった深奥の心の声を聴こうともしないで今に至っていることが問題なのではないだろうか。
そんな「心の貧困」状態が20年も続いており、その結果引きこもりやニートそして自殺者の数が高止まりしたまま、ほとんど減らないといった危機的状況が続いている。

 もうそろそろ、一人一人が自分にあった本当の幸せを真剣に考え始めてもよい時期なのではないだろうか。 確かに対応は少し遅れたかもしれない、しかし、それぞれが自分自身の心と向き合いながら対話を進め、本当の心が欲していることを知り、それに向かって一歩ずつ、ゆっくりと歩み始めてみようではないか。

昔は十人十色といわれたが、今は一人十色の時代でもある。ひとつの自分にとらわれる必要はない。 自分の中にある、あらゆる可能性を探し出して挑戦してみることが大事だと思う。

今までの「仕事しか中心がない」状態から、「中心がない=全てが中心」への切り替えをしてみてはどうだろうか。

無心で熱中している赤ちゃんのような気持ちで、わくわく、ドキドキするような冒険の旅に出発しようではないか。   何ものにもとらわれない自由な心で、あるがままに生きていこう。

 「経済の復興」以上に「心の復興」が大事である。
3.11は「心の復興」の素晴らしいモデルを数多く示してくれている。 被災地での集団生活を見ていると、日本人の品格の高さに驚きと敬意を表さずにいられない。 世界中の誰もがこの光景を見て「日本人は信じられる」と心の底から感嘆している
そこに、われわれ日本人の原点がある。

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