(平成23年03月15日)
新しい国を生み出す「出産」

 出産には大きな苦しみと喜びを伴うことを誰でもが知っている。しかし、本当の苦しみは当人しかわからない。新しい命を生み出すために、その母体は自らを犠牲にする覚悟で出産に望む。

超巨大地震による家屋やインフラ施設の被災、10メートルを超える巨大津波から受けた多くの人的被害、そして福島原発事故による目には見えない放射能の波等の苦難が次から次へと押し寄せてきた。今回の大地震は誰もが経験したことのない、想像を絶する空前の規模の災害である。
 一瞬にして大津波に飲み込まれてしまった人たちに対し、心より哀悼の意を捧げるとともに、ご冥福をお祈りしたい。また、被災した人たちが一日も早く復興を成し遂げられるよう祈るばかりである。

人は一人ではない。字のごとく支え合って生きていくのが人間である。温かな心で支えられていると心から思えれば、自らの生命の炎を燃やし続けることができる。この絆こそが最後の防波堤となる。今現在も、被災者の方々の多くは氷点下の苛酷な環境下で、厳しい避難生活を強いられ、食べるものも水も燃料もない極限状態に置かれている。
その上に、さらに新たな放射能の危機が迫っており、次から次へと襲いかかる想像を絶する恐怖の大波に、避難生活を送る方々の心の恐怖心は我々が感じている不安の何千倍も何万倍もの大きさに増幅されているはずである。
 それなのに、被災地で苦しんでいる人たちはどうなってもかまわないと言わんばかりに、我先にと争ってガソリン、食料、薬品、防災用具等の買い占めに走る姿はあまりにも醜く過ぎはしないだろうか。同じ日本人である仲間が苛酷な被災地で苦しみに喘いでいることを考えれば、自分勝手で異常な行動など取れるはずはない。まことに残念である。西洋のハイパー個人主義のウイルスが蔓延し、集団発症してしまったかのようにも映る。もう日本人は壊れてしまったのだろうか?
否、このような人たちはほんの一握りに違いない。実際に、被災地で命を張って国民を守ろうとしている人たちが沢山いるからである。
東電の技術者、作業者をはじめ、自衛隊、消防士、警察官、ボランティア等は、自らの生命の危険も顧みず、己を犠牲にする覚悟で与えられた使命を全うしようと頑張っている。この人たちの「生きざま」には本当に頭が下がる。心から感謝を申し上げたい。

いつの日にか必ず、この使命と志を持った人たちの行動が、多くの日本国民の意識を変換させ、夢と希望のもてる新たな国を生み出す「出産」の役割を果たすものと確信している。

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